販売企画部の野﨑です。
みなさんは、こんな経験はありませんか。同じ商品なのに、 「この人から買いたい」 と思ったこと。価格も品質もほとんど変わらない。 それでも、なぜか選んでしまう。私は販売企画の仕事に携わり15年になりますが、その理由を何度も目の当たりにしてきました。その中でも、私の考え方を大きく変えた出来事があります。「人は、人から買う。」
今回このテーマを書こうと思ったのは、一人のお客様との出来事がきっかけでした。今から5年前のことです。一本のお電話が鳴りました。「こんな硬い桃を送ってきて、どういうつもりなんだ!」「福島県を少しでも応援しようと思って買ったのに、その気持ちを踏みにじる商売をしているのか。」厳しいお叱りでした。長年この仕事をしていますが、お客様の怒りの奥には、必ず理由があります。私はまず、「あかつき」という桃の特徴をご説明しました。福島県を代表する品種であること。収穫したては、実は硬い食感も魅力の一つであること。その上で、お客様へお尋ねしました。
「普段は、どちらの桃を召し上がることが多いですか?」すると、「山梨県産や長野県産ばかりだよ。」というお返事でした。
その瞬間、私はあることを思い出しました。実は私自身、この仕事に就くまで福島の桃を食べたことがありませんでした。初めて「あかつき」が届いたとき、箱を開けると甘い香りが広がりました。ところが、手に取ると驚くほど硬い。「まだ早いんだな。」そう思って、柔らかくなるのを待ちました。
3日。4日。そして一週間…。
それでも、私が思うような柔らかさにはなりませんでした。 そして、ようやく食べようとした頃には傷み始めていて、せっかくの桃を一番おいしい状態で味わえませんでした。
つまり私も、お客様とまったく同じ思いをしていたのです。私はその話を、ありのままお客様へお伝えしました。すると、お客様は少し黙ってから、「じゃあ、ちょっと待って。今、食べてみるから。」そうおっしゃいました。どのくらい待ったでしょうか。電話越しに聞こえた一言は、今でも忘れられません。
「……うまいなぁ。」「こういう桃があるんだ。」私は心の中で、ほっとしました。しかし、お客様は続けてこうおっしゃいました。「野﨑さん、この桃の特徴や食べ方を、どうして紙一枚入れて教えてくれないんだ‗不親切だよ。」私は、その言葉にハッとしました。私たちは「福島では当たり前」と思っていたことが、県外では当たり前ではないのです。このご意見をきっかけに、生産者の皆さんへお伝えし、食べ方や特徴を書いたリーフレットを同梱してくださる農家さんが増えました。事情により同梱が難しい場合でも、ECサイトの商品説明でしっかりお伝えするよう改善していきました。内田様(仮名)の一言が、私たちの伝え方を変えてくれたのです。
そして何よりうれしかったのは、そのお客様が、それ以来毎年、お中元としてたくさんの桃をご注文くださるようになったことでした。つい、先日、内田様に「あかつき」のご案内をしようと思っていたところ、電話が鳴りました。 「ちょうど今、内田様へご連絡しようと思っていたんですよ。以心伝心ですね。」と伝えると「ホントかい?」と笑い合える関係性になっています。そして、贈り先のご事情などの相談も受けるようになりました。ネットや電話では顔を見ることはできません。受話器を取った瞬間、声だけで「あ、内田様だ」と分かる。そんな関係になれたことは、とても幸せなことだと思っています。

お客様との会話は、商品を売るためだけのものではなく、私たち自身が気づいていない課題を教えてもらう機会でもあるのです。
AI時代だからこそ考えたいこと
最近はAIが文章を書き、おすすめ商品を提案し、チャットで接客までしてくれる時代になりました。便利になった一方で、こんな疑問も浮かびます。「これからは、人が売る必要はなくなるのでしょうか。」
商品ではなく「人」が選ばれている
例えば、福島の桃。スーパーに並ぶ桃も、ネットショップの桃も、見た目は大きく変わらないかもしれません。
ふくしま市場には、「あいはらさんの桃だから」そう言って、毎年注文してくださるお客様がいます。その理由は、甘さだけでも、価格だけでもありません。生産者の顔や考え方を知り、毎年同じ人から届く。
その積み重ねが、『あいはらさんの桃だから』という信頼になると思っているんです。私は生産者の相原さんに、いつもこう言います。「お客様に絶大な信頼があるんですよ。」すると、決まって返ってくるのが、「何も特別なことはしていないんですけどね。」という言葉です。その一言からも、相原さんの素朴さと実直さが伝わってきます。
実際のレビューにも、「リピート購入しました」「親戚・友人宅へ贈ります」「また来年もお願いします」といった声が並びます。商品そのもののおいしさだけではなく、生産者や届け手への信頼が、次のご注文につながっていることが分かります。

私たちの仕事でも同じ
ECサイトも、イベントも、カタログギフトも、最終的に選ばれる理由は、商品やデザインだけではありません。「あの会社なら安心」「あの担当者だからお願いしたい」「あなたがオススメしてくれる商品は間違いない」そんな言葉をいただけることがあります。商品の価値だけではなく、会社や担当者への信頼も商品価値の一部なのだと感じています。
AIにできること、できないこと
AIは、速く、大量の情報を処理し、24時間私たちの仕事を支えてくれます。でも、長年のお付き合いから生まれる安心感や、「あなたにお願いしたい」という気持ちは、簡単には作れません。
AIは仕事を支える最高のパートナーにはなりますが、人との信頼関係を築くのは、やはり人なのだと思います。
これからAIはますます進化するでしょう。だからこそ、私たちに求められるのは、知識だけではなく、
「この人と仕事がしたい」と思っていただける人間力なのかもしれません。商品は真似できても、信頼は真似できません。だから私はこれからも、商品を売るだけでなく、信頼を積み重ねる仕事をしていきたいと思います。

まとめ
毎年ふくしま市場で桃をご購入くださるお客様が、百貨店の催事会場へ私たちを訪ねてきてくださったこともありました。初めてお会いするはずなのに、どこか懐かしく、ずっと前から知っているような不思議な感覚でした。実際のお客様の顔が見えません。電話も声しか聞こえません。それでも、人と人との信頼は、確かに積み重なっていくのだと思います。
人は、商品を買っているようで、実は「人」から買っている。
AIが進化する時代だからこそ、最後に選ばれるのは「誰から買うか」。私は「商品」を売るだけではなく、「信頼」を積み重ねる仕事をしていきたいと思っています。……と、ここまで書いて、もう一つ気になることが出てきました。私たちはこれからも、自分で「選ぶ」のでしょうか。最近は、ガチャやレコメンド、誰かに選んでもらうサービスも増えています。「誰から買うか」の次は、「誰に選んでもらうか」が大切になるのかもしれません。これは、次回のブログで考えてみたいと思います。

