テレビを見ていると、つい手を止めてしまうCMがあります。商品よりも世界観が強く、ネットのネタだったり、少しクセのある演出。
放送されるたびにSNSでは「何これ」「意味が分からない」「またやってる」と話題になり、ネットニュースになることも珍しくありません。正直なところ、以前の私はこう思っていました。「話題づくりを狙っているんだろうな。」「担当者がネット古参で企画を押し通したのかな。」もちろん、それも理由の一つなのかもしれません。でも、何度か目にしているうちに、少し見方が変わりました。
よく考えてみると、私はCMの内容を細かく覚えているわけではありません。
「何だったんだ、あれ。」
「何を見せられたんだろう。」
そんな感想だけが残っています。それなのに、不思議なことがあります。
最後には必ず、
「あ、新しい味が出たんだ。」
ということだけは、ちゃんと覚えているのです。
もしかすると、あのCMはストーリーを理解してもらうことが目的ではなく、「新商品が出た」という事実を記憶に残すための仕掛けなのかもしれません。そう考えた瞬間、「変なCM」という印象が少し違って見えるようになりました。

「分かる人には分かる」は、本当に狙いなのでしょうか。
もう一つ面白いと感じたことがあります。あのCMには、「分かる人には分かる」ネタがよく登場します。
ネット文化だったり、少し昔の流行だったり。全員に向けたものではなく、「知っている人なら思わず反応してしまう」ような小ネタです。以前は、それを見て「ニッチすぎるのでは」と思っていました。
でも、本当に届けたいのは”そのネタを知っている人”なのでしょうか。私は「分かった」という事実ではなく、その瞬間に生まれる感情なのではと感じています。「このネタ知っています!」「その感覚、分かります!」
そう思えた瞬間、企業という存在が少しだけ身近になります。まるで昔から知っている友人が冗談を言ってきたような感覚です。
実際には何も関係がないのに、勝手に親近感を抱いてしまう。ブランドとの距離は、そんな些細なきっかけで縮まることがあるのかもしれません。
広告は多くの人に届けるものですが、「みんなに好かれよう」とすることと、「誰かに強く印象を残す」ことは、必ずしも同じではありません。全員が100点を付ける広告よりも、80点でも90点でもいいから、「あれ、何だったんだろう」と思い出してもらえる広告の方が、長く記憶に残ることもあります。
「気になる」をつくる
マーケティングの世界では、「誰にも嫌われない広告は、誰の記憶にも残らない」という考え方を耳にすることがあります。もちろん、炎上を狙うという意味ではありません。多くの情報が毎日流れていく中で、一番避けたいのは「見たはずなのに、何も覚えていない」という状態です。一瞬でも足を止めてもらう。
「何だったんだろう。」そう思っていただく。その数秒が、ブランドを記憶に残すきっかけになるのかもしれません。

そう考えると、あのCMは商品の説明をしているようで、実は「気になる」という感情を丁寧に設計しているようにも見えてきます。
説明は後からでもできますし、「なんか気になるからあのCMもう一回みてみるか。」「商品の味は結局何だろう。」とスマホで検索欄を開く、店頭で「買ってみるか」と企業への信頼感により悩む時間をなくす。そもそも興味がなかった人も、なんだか脳にこびりつくあのCMで手に取ってしまうことは少なからずあるでしょう。
ただ、このCMの商品は無名の商品ではありません。「即席麺の王者といえば?」と聞けば、多くの人が真っ先に思い浮かべるブランドの1つでしょう。味も認知度も、すでに十分すぎるほど知られています。それなのに、なぜ毎回あれほど挑戦的なCMを作るのでしょうか。
私は、ブランドは「知っている」だけでは足りないのだと思います。スーパーに行けば、競合は何十種類も並んでいます。その中で、「今日はこれにしよう」と思い出していただくためには、味だけではなく、ブランドそのものを身近に感じてもらうことも大切なのかもしれません。「分かる人には分かる」というネタは、今すぐ商品を買っていただくためだけではないのかもしれません。「この会社、面白い。」「なんか好き。」そんな感情を少しずつ積み重ねていく。
ブランドを身近に感じる理由は、一つではありません。味がおいしいこともその一つですが、広告や発信を通して「なんとなく好き」という気持ちを育てている可能性もあるのではないでしょうか。 そして、どんなに斬新な広告にも、いつか慣れは訪れます。
「また変なCMだな。」
その一言さえ、いずれブランドの当たり前になってしまう日が来るのかもしれません。そのとき、このブランドはさらに「そう来るか」と思わせる一手を見せてくれるのでしょうか。それとも、これまでとはまったく違う方法で私たちの予想を裏切ってくれるのでしょうか。「変なCM」で終わらせるのは簡単です。でも、その違和感をつくる理由まで考えてみると、見え方は少し変わります。次にあのCMが流れたら、「今回は何を見せてくれるんだろう」と、以前とは違う目で見ている自分がいる気がします。
あとがき
この記事は、あるCMを見ながら「なんでこんな広告なんだろう」と考え始めたことがきっかけでした。
もちろん、実際の広告戦略や意図は担当者の方しか分かりません。今回書いた内容も、あくまで一人の消費者として感じたことです。
普段何気なく見ているCMも、「なぜ、この表現を選んだのだろう」と少し立ち止まって考えてみると、色んな見方ができるかもしれません。これからも、商品だけではなく、その背景にある伝え方やブランドづくりにも注目しながら、いろいろな広告や打ち手を楽しんでいきたいと思います。

