「使いやすい」って、どういうこと?

はじめに――迷わなかったのは偶然ではない

今日、ドアを開けるたびに、使い方を一から考えた人はほとんどいないでしょう。
取っ手があれば手を掛け、押し板があればそのまま押す。透明なガラスのドアの向こう側が見えれば、そのまま前へ進めるように感じます。
人は、説明を読まなくても、ドアの形や見た目から使い方を判断しています。

押し板があれば「押す」、握りやすい取っ手があれば「引く」と、多くの人は自然に予測します。

しかし、こうした手掛かりと実際の操作が一致しない場合には、迷いが生まれます。例えば、押すドアに握りやすい取っ手が付いていると、思わず引いてしまうことがあります。「押す」と書かれた表示を見て、初めて間違いに気付くこともあります。

なぜ、迷わず使える物と、使い方に迷う物があるのでしょうか。
身の回りの物には、人が自然に行動できるように、形や配置によって使い方を伝える工夫があります。

形は使い方を伝えている

身の回りには、見ただけで使い方を予測できる物があります。

・出っ張った部分を見ると、押せそうに感じる(写真1)

・くぼみを見ると、指を掛けられそうに感じる(写真2)

・ハンドルを見ると、握ったり回したりできそうに感じる(写真3)

・横長のバーを見ると、手を掛けられそうに感じる(写真4)

このように、物や環境が人に「このように使えそうだ」と感じさせる性質を、アフォーダンスと呼びます。

このように、物や環境が人に「このように使えそうだ」と感じさせる性質を、アフォーダンスと呼びます。
アフォーダンスは、もともと心理学の分野で生まれ、その後、製品やサービスの使いやすさを考えるデザインの分野でも広く扱われるようになった考え方です。
ただし、この記事で大切なのは言葉を覚えることではありません。
人が物を迷わず使える背景には、形や見た目から、次に取る行動を予測できる仕組みがあるということです。
また、実際の使いやすさには、物の形だけでなく、これまでの経験や、社会の中で共有されてきた操作上の約束も関係しています。
例えば、蛇口やネジの回し方が製品ごとにまったく異なれば、使うたびに操作方法を確認しなければなりません。共通した形や操作があるからこそ、初めて使う物でも過去の経験を生かせます。

画面(UI)の中にも「使い方の手掛かり」がある

アフォーダンスは、ドアや蛇口などの物理的な物だけにあるわけではありません。スマートフォンやWebサイトの画面、つまりUI(ユーザーインターフェース)にも、使い方を伝える手掛かりがあります。
例えば、Webサイト上で色の付いた四角形に「購入する」と書かれていれば、多くの人は押せるボタンだと判断します。
下線の付いた文字は、別のページへ移動するリンクだと予測できます。枠で囲まれた空欄に「メールアドレス」と表示されていれば、そこへ文字を入力するのだと分かります。
カートや虫眼鏡、ゴミ箱などのマークも、これまでの経験から役割を予測できます。
しかし、デジタル画面のボタンは、実際に飛び出しているわけではありません。色、影、形、文字、配置などを使って、「ここは押せる」「ここへ入力できる」と伝える必要があります。
ECサイトでは、商品の魅力を見せるだけでは十分ではありません。
・どこから商品を購入できるのか
・カートの中身はどこで確認できるのか
・次に何を入力すればよいのか
・注文が完了したのか
こうした流れが自然に分からなければ、商品に興味があっても購入まで進めないことがあります。
デザインには、情報をきれいに見せるだけでなく、使う人が次に何をすればよいかを伝える役割があります。

迷いが積み重なると、本来の目的から遠ざかる

もし、蛇口の操作方法がメーカーごとにまったく異なっていたら、どうなるでしょうか。
ある蛇口は右へ回すと水が出る。別の蛇口は左へ回す。別の製品では押し、さらに別の製品では手前へ引く。
そのたびに使い方を確認しなければならないとしたら、水を出すという簡単な行動にも迷いが生まれます。

▲左:ECサイトの悪い例。「カートに入れる」が分かりづらい。 右:良い例。「カートに入れる」が一目で分かりやすい。

Webサイトでも同じです。

商品を買いたいのに、購入ボタンが見つからない。必要事項を入力したのに、次にどこを押せばよいか分からない。注文が完了したのか判断できない。
一つ一つは小さな迷いでも、それが続くと使う人は疲れ、目的を諦めてしまうことがあります。
人は、蛇口の操作方法を考えるために蛇口を使うのではありません。水を使うためです。

Webサイトの進み方を考えるためにECサイトを見るのでもありません。商品を知り、必要であれば購入するためです。

使いやすいデザインは、こうした本来の目的までの間にある余計な迷いを減らします。
つまり、アフォーダンスや共通した操作方法が減らしているのは、単なる時間や手間だけではありません。使うたびに「これで合っているだろうか」と考える、小さな判断の負担も減らしているのです。

まとめ――使いやすさは、目的までの迷いを減らすこと

私たちは、物やサービスを使うたびに説明書を読んでいるわけではありません。形や色、配置、これまでの経験から、自然に次の行動を判断しています。
デザインは、それらを利用し、使う人が迷わず目的へ進めるように、行動の手掛かりを整えています。
優れたデザインほど、使っている最中に意識されることはありません。それは存在感がないからではなく、人が迷わず目的へ進めるよう支えているからです。デザインは目立つためのものではなく、人が目的を達成するための環境を整えるものなのです。
次にドアを開けるときやWebサイトを使うとき、自分の手がどこで止まったかを少し意識してみてください。迷わず進めた場所には、人が自然に目的へ向かえるように整えられたデザインが隠れているかもしれません。