前回のブログでは、AIをめぐる「格差」と、AIエージェントの話を書きました。
今回はその一歩手前、多くの人にとってAIの入口となっている「AIチャット」について、世界を見渡しながら整理してみたいと思います。
というのも最近、打ち合わせや周り人たちから、
「AIって、結局どれを使えばいいんですか?」
たしかに、今やAIチャットのサービスは世界中に溢れています。 アメリカだけでなく、中国、ヨーロッパ、韓国……各国がそれぞれの思惑でAIを育てており、その勢力図はなかなか面白いことになっています。
今日はその「世界のAIチャット勢力図」を、私なりに整理してご紹介します。
今は、インターネット黎明期と同じ「入口」にいる
現在のAIブームは、1990年代半ばのインターネット黎明期と非常に似ていると言われています。
1990年代半ば、Windows 95の登場とともにインターネットが一般家庭に広がり始めました。当時は「インターネットで何ができるの?」「自分には関係ない」と言う人も多かった。でも、そこから検索、EC、SNS、スマートフォンと世界は一変し、GoogleやAmazonのような、生活に欠かせない巨大企業が生まれていきました。
その過程では、1990年代後半から2000年代初頭にかけての「インターネットバブル(ITバブル)」もありました。多くのドットコム企業が消えていった一方で、本物の技術と価値を持つ企業は生き残り、その後のインフラになっていったのです。
今のAIは、ちょうどあの頃のインターネットと同じ地点にいる。私はそう感じています。
つまり、私たちは今、次の30年を変える技術の「入口」に立ち会っているということ。 あの時「自分には関係ない」と言っていた人と、いち早く触っていた人とで大きな差がついたように、AIでも同じことが起きるはずです。

だからこそ大事なのは、実際に自分で使ってみること。私はそう思っています。
AIの入口は「AIチャット」
前回紹介したAIエージェントのような高度な使い方もありますが、多くの人にとってAIとの最初の接点は、やはり「AIチャット」です。
質問すれば答えてくれる。文章を作ってくれる。資料を要約してくれる。 この「対話するだけで使える」手軽さが、AIをここまで普及させた最大の理由だと思います。
では、世界にはどんなAIチャットがあるのか。国別に見ていきましょう。
アメリカ勢:王者たちの戦い
まずは本場アメリカ。ここは役者が揃っています。
ChatGPT(OpenAI) 言わずと知れた王者。2022年11月30日の公開から5日で100万人、2ヶ月で1億人のユーザーを獲得しました。今もユーザー数では世界最大で、AIチャットの代名詞的存在です。
Claude(Anthropic) OpenAIの元メンバーが創業したAnthropic社のAI。長文の読解力と自然な文章力、そしてプログラミング能力に定評があります。開発者向けの「Claude Code」も人気で、エンジニア界隈での支持が厚い印象です。
Gemini(Google) 検索の王者Googleの本命。Google検索やGmail、スプレッドシートとの連携が強みで、Pixelスマートフォンにも標準搭載されています。私もPixelユーザーなので、日常に自然と入り込んできています。
Grok(xAI) イーロン・マスク率いるxAIのチャットAI。X(旧Twitter)に統合されており、Xのリアルタイム投稿を参照できるのが特徴。良くも悪くも「規制の少ない」回答スタイルで話題を集めています。
Copilot(Microsoft) 実は日本のビジネスパーソンが一番触れているAIは、これかもしれません。WindowsやOffice、Edgeブラウザに標準搭載されているため、「気づいたら使っていた」という人も多いはず。
中国勢:静かに、しかし確実に力をつけている
そして中国。ここが今、一番面白いかもしれません。
DeepSeek(深度求索) 2025年1月、世界に衝撃を与えた「DeepSeekショック」の主役。アメリカ勢の何分の一というコストで高性能AIを開発したと発表し、NVIDIAの株価まで動かしました。モデルをオープンソースで公開している点も特徴です。
Qwen/通義千問(Alibaba) 中国EC最大手アリババのAI。オープンソースモデルとして世界中の開発者に使われており、性能面でも世界トップクラスの評価を受けています。後述しますが、私が最近よく使っているのがこれです。
豆包/Doubao(ByteDance) TikTokの親会社ByteDanceのAIチャット。実は中国国内の利用者数では、DeepSeekよりもこちらがトップ級。「中国で一番使われているAI」は、日本ではほとんど知られていないこのアプリなんです。
Manus 中国発のスタートアップが開発した自律型AIエージェント。厳密にはチャットというより「指示すると調査から資料作成まで自分でやってくれるAI」で、2025年3月の登場時に世界中で話題になりました。
米中だけじゃない:各国の「AI主権」争い
AIは米中二強に見えますが、実は各国が「自国のAI」を必死に育てています。
Le Chat/Mistral AI(フランス) ヨーロッパの星。元MetaやDeepMindの研究者が創業し、設立からわずか数年でフランスを代表するAI企業に成長しました。「アメリカと中国にAIを握られていいのか」という欧州のAI主権の象徴として、国を挙げて支援されています。
CLOVA X(韓国・NAVER) LINEの親会社でもある韓国NAVERのAI。韓国語に特化した「韓国のためのAI」として展開されています。
こうして見ると、AIは単なる便利ツールではなく、各国が国家戦略として取り組む「主権」の問題になっていることがわかります。
では、日本は?
正直に言えば、日本には米中のような一般消費者向けの大規模AIチャットは、まだありません。ただ、希望はあります。
Sakana AI(東京) 今のAIブームの起点となった「Transformer」論文の共著者らが東京で創業した研究企業。「進化的モデルマージ」などユニークな研究アプローチで世界から注目され、日本発AIの期待の星です。
このほか、NTTの「tsuzumi」やPreferred Networksの「PLaMo」など、企業向けの国産LLMも育ってきています。
CESのブログでも書きましたが、私は日本には「まだ挑戦の余地と伸びしろがある」と本気で思っています。悲観するのではなく、この状況をチャンスと捉えたい。
世界のAIチャット比較リスト
ここまで紹介したサービスを一覧にまとめました。
| サービス | 企業(国) | 一般公開 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| ChatGPT | OpenAI(米) | 2022年11月 | ユーザー数世界最大。AIチャットの代名詞 |
| Claude | Anthropic(米) | 2023年 | 長文読解・文章力・コーディングに強い |
| Gemini | Google(米) | 2023年(Bard)→2024年に改称 | Google製品との連携。Pixelに標準搭載 |
| Grok | xAI(米) | 2023年11月 | Xと統合。リアルタイム情報に強い |
| Copilot | Microsoft(米) | 2023年2月 | Windows・Officeに標準搭載 |
| DeepSeek | DeepSeek(中) | 2025年1月に世界的話題 | 低コスト高性能で「DeepSeekショック」 |
| Qwen | Alibaba(中) | 2023年4月 | オープンソースで世界の開発者が利用 |
| 豆包(Doubao) | ByteDance(中) | 2023年8月 | 中国国内利用者数トップ級 |
| Manus | 中国発スタートアップ | 2025年3月 | 自律型AIエージェント |
| Le Chat | Mistral AI(仏) | 2024年2月 | 欧州AI主権の象徴 |
| CLOVA X | NAVER(韓) | 2023年8月 | 韓国語特化 |
| Sakana AI | Sakana AI(日) | 2023年設立 | 研究特化。日本発AIの期待の星 |
中国のAIは、中国の情報を調べるのに強い
ここで、私が最近実感していることを一つ。
今年は展示会の視察などで深センや上海に行く機会があるのですが、そこで面白い使い方を発見しました。
展示会で気になったブースの写真を撮影して、それをQwenにアップロードするんです。すると、その会社のことや製品のこと、展示会そのものについて調べてくれる。
同じことをGeminiやChatGPTでもやってみたのですが、中国企業や中国の展示会に関しては、Qwenの回答のほうが明らかに情報が濃い。考えてみれば当然で、中国のAIは中国語の情報を大量に学習しているわけです。
もう一つ、現地に行くとわかることがあります。 実は、中国国内ではChatGPTもGeminiもClaudeも、そのままでは使えません。 中国のインターネット規制(いわゆるグレートファイアウォール)により、GoogleやOpenAIなどのサービスにはアクセスできないのです。中国の人たちが日常的に使っているのは、豆包やDeepSeek、Qwenといった自国のAI。米中のAIは、それぞれ別の世界で進化しているとも言えます。
だからこそ、中国出張の際は現地のAIを使ってみる。これも一つの「まずやってみる」です。
「アメリカのAIが常に最強」ではなく、調べたい対象や使う場所によってAIを使い分ける。これが実際に使ってみてわかった、リアルな学びでした。
あなたはどのAIチャットを使っていますか?
最後に、私自身の使い分けをご紹介します。
普段のメインは、Gemini、ChatGPT、Claudeの3つ。用途や気分によって使い分けています。 そして、中国の情報を調べるときはQwenやDeepSeek。
「え、そんなに使ってるの?」と思われるかもしれません。 でも、それぞれに得意・不得意があるので、複数を使い比べることで、それぞれの個性がわかってきます。これも「まずやってみる」の一つです。
さて、あなたはどのAIチャットを使っていますか?
もし「まだどれも使っていない」という方がいたら、どれでもいいので、まず一つ触ってみてください。 無料で始められるものばかりです。インターネット黎明期に「まさかここまで世界が変わるとは」と誰も想像できなかったように、AIがこの先どんな未来を作るのかは、まだ誰にもわかりません。 でも、使った人にしか見えない景色があることだけは、確かです。

