はじめまして。ドローン事業部部長のITOです。
ドローン事業部では人材育成、機体販売、修理、ドローン・水中ドローン業務の請負いなど、ドローンに関する様々な業務を行っています。私は主に業務請負と修理関係の技術的な担当をしておりますので、その目線で皆様のお役に立つ情報を発信できればと思っています。
(この記事の対象)これからドローン・水中ドローンの業務を行いたいと思っている方、ドローン・水中ドローンの業務に興味がある方
はじめに
近年、空中ドローンを活用した業務(空撮、測量、農薬散布、点検、配送など)が当たり前になりつつありますが、昨今では水中ドローンも様々な業務シーンで活用されるようになってきました。当社のドローン事業部でも、空中ドローン・水中ドローンの業務のご依頼をいただき、色々な現場でドローンの運用を行っています。
ドローンや水中ドローンが業務で本格的に使用されるようになったのはここ数年のことで、特に水中ドローン関してはまだまだこれからという段階で、水中ドローンを業務で安全に事故やトラブルなく運用するノウハウは、今まさに蓄積を行っている状況ではないかと思います。
そのような中でドローンの、特に水中ドローンの業務を行う時にとても重要になる「コミュニケーション」について、私なりにお話ししたいと思います。
十現場十色!?ドローンの現場
十現場十色という言葉はありませんが、十人十色というように、私たちがご依頼いただく空中ドローン・水中ドローンの現場は、様々な内容、環境、状況の現場があります。
まず、業務の「内容」についてですが、当社で行う業務は基本的にはドローンについているカメラで撮影する“見る”ということが主な業務になりますが「何のために見るのか」については色々な目的があります。
映像の撮影(きれいな映像を撮ること)がメインの目的であることもありますが、それ以外には点検のため、調査のため、何かしらの原因特定のため、時には捜索を目的とする場合もあります。その目的は様々です。
また、その業務を行う「環境」についても現場によって多種多様で、空中ドローンの場合は街中もあれば山中、海の上で船からドローンを離発着させて飛ばす現場もあります。当社の業務ではあまりありませんが、屋内で飛ばす業務もあります。水中ドローンであればダムや河川、港湾や工場の施設内、配管の中やタンクの中、こちらも船の上から水中ドローンを海や湖に入れて行う業務など、特殊な現場も含めれば数限りない環境があります。
業務を行う「状況」については、定期的な業務もあれば緊急性の高いもの、可能かどうかやってみないとわからないという状況もあります。
このような様々な内容、環境、状況の現場で、ドローンを安全にトラブルや事故なく運用し業務を完了させるためには、もちろん運用計画、機体の性能や状態、操縦者の操縦技術、段取りなどが重要な要素になってきますが、最後に一番大切になる要素が、現場での「様々なコミュニケーション」であると思います。


神話の教訓にもなっているコミュニケーションの重要性
複数の人間が一つの目的のために何かを行う時に、人間同士のコミュニケーションが重要であることは、私がわざわざここで話さなくても、皆さんは重々承知のことと思います。
話は少しそれますが、聖書に出てくるバベルの塔の物語は、人間の傲慢さや実現不可能な計画への戒めが込められているのと同時に、人間のコミュニケーションの重要性という教訓も教えてくれています。バベルの塔が完成しなかった大きな理由は、建設に携わっていた人たちのミスコミュニケーションによるものでした。チーム内のミスコミュニケーションはプロジェクトの失敗につながるという、現代にも通ずる重要なメッセージが込められていると思います。
話は大きくなってしまいましたが、では私たちがドローンの現場で行うコミュニケーションは、どういった場面でどのように重要なるのか見ていきたいと思います。

操縦者の第二の目となる
空中ドローンも水中ドローンも業務でドローンを運用するときは、操縦者はドローンのカメラから送られてくる映像が映し出される画面に集中します。空中ドローンの場合には、これは目視外飛行になるので許可を得ていなければやってはいけない操縦方法ですが、許可をもって業務を行う場合には画面に集中します。
空中ドローンも水中ドローンも、基本的にカメラは機体の正面についていますので、機体の正面の景色しか見えていません。特に水中ドローンの場合は、機体が水中に潜航したところから、機体はどこにいてどっちを向いているかすらわからない現場がほとんどですので、操縦者が得られる情報はカメラの映像からだけになります。
空中ドローンの場合、機体が目視できる範囲で飛ばしている時には、安全運行管理者や補助者が機体を確認しながら飛行させます。
水中ドローンの場合には先ほども書いたように機体が見えるという状況はなかなか無いため、テザーケーブルを持っているケーブル技師が、機体の状況をある程度把握して操縦者に教えてあげる必要があります。
どちらの場合も操縦者が把握できない情報を代わりに把握して教えてあげることが、トラブルを回避し安全に運用を進めるためのとても重要な役割となります。操縦者から見えない視点を提供する、言わば操縦者の第二の目になる担当者の役割が、ドローンの現場ではとても重要です。
この第二の目となる役割を担う担当者と操縦者のコミュニケーションがどれだけ上手くできるかが、業務をスムーズに安全に遂行するためのカギと言っても過言ではありません。このコミュニケーション無くしては、ドローンの業務を無事に完了させることはできないのです。
水中ドローンはさらに難しい!?
先ほども書きましたが、水中ドローンの業務では機体が現場の水域に潜航し出したと同時に機体の姿は全く見えなくなる場合がほとんどです。そのため、水中ドローンにつながるケーブル、テザーケーブルを操作するケーブル技師も機体の状態を目視して操縦者に伝えてあげることは不可能です。
ではどのようにして機体の状態を把握するか。それは水中での機体の動きと、ケーブル技師が手に持っているケーブルの動きがどれだけ一致するかで様々な判断を行います。たとえば、手元のケーブルが引っ張られてどんどん出ていく。水中ドローンがぐんぐん前進しているのかな?ケーブル技師はそう思うかもしれません。でももし操縦者が水中ドローンを動かしていないのにケーブルがどんどん出て行っているとしたら、どんなことが考えられるでしょうか。海や川であれば、機体が水の流れに持っていかれて流されてしまっている可能性が考えられます。また、場合によってはケーブルだけが何かに引っ張られて流されている可能性もあります。これを見過ごしてしまうと、ケーブルがどこかに引っかかってしまったり、機体がどこかに引っかかってしまい回収できなくなるという重大なトラブルにつながる可能性もあります。
水中ドローンは、水中に目標となる構造物や目印が無い場合は、操縦者は機体がどっちを向いているか、とどまっているか流されているかさえ把握できないことも多々あります。
このような点で水中ドローンの業務では特に、ケーブル技師がケーブルから把握する機体の状況を操縦者に伝えることはもちろんのこと、操縦者がいま何をしているのかをケーブル技師に伝える双方向のコミュニケーションが大変重要になってきます。
私たちが現場で行っているコミュニケーションはこんな感じです。
操縦者:前進します。
ケーブル技師:あれ?前進してるのにケーブルが出ていかないよ?
操縦者:え?前進してるよ?
ケーブル技師:機体の向きが逆向いてない?
操縦者:了解、ちょっと確認する。・・・ああ、確かに、逆に向いてて戻ってきてるかも。180度逆に向けて動かしてみる。
ケーブル技師:うん、ケーブルが出て行った。進む方向はそっちだね。
このようなやり取りをたくさんしながら、誰にも見えていない水中の機体の状況をお互いにイメージしながら運用を行っています。

コミュニケーションは「言語化能力」が命!
空中ドローンの運用で、安全運行管理者や補助者が操縦者の目になるとお話ししましたが、目の代わりをする担当者が操縦者に情報を伝えるには「どう伝えるか」が重要になります。例えば、「木が近くにあるから気をつけて!」と言われたら、操縦者はどうすればいいでしょうか。木が近くにあることは伝わりましたが、どの方向に?どれくらいの高さに?どれくらい近い?全く必要な情報が伝わっていません。
バベルの塔の物語と違って言葉は通じているものの、これではミスコミュニケーションとなってしまいます。この時に伝えるべき情報は、ドローンに対してどの方向、高さに木があるのか、どう動くと危険なのかを正確に操縦者に教えてあげる必要があります。ただ、ある程度の速度で飛行している場合には、それを長々と説明している時間はありません。短く正確に操縦者に伝える必要があるのです。
このように、コミュニケーションはただ単に情報をやり取りするだけでなく、正確に端的に伝えることもドローンの現場では重要になってきます。そのためには「言語化能力」が重要になります。今の状況をより正確に短く言語化して伝える。
例えば、横移動しながら撮影しているドローンの進行方向に木がある場合であれば、「そのまま進むと10m先に木があるので、少し前進しながら横移動してください」と伝えると操縦者は何をすればいいかすぐに判断できます。そのために目となる役割をする担当者は、操縦者が今何をしようとしているかを理解し、先回りして状況を把握し、正確に伝える言語化をする必要があるのです。
また、普段からコミュニケーションの練習として、何をどのように伝えるかを共有しておくのも重要だと思います。「右」といった場合どっちから見て右?機体の右側?こっちから機体を見て右側?普段からお互いに何をどう伝えるのか、「言葉の共通理解」をしておくことも重要だと思います。
まとめ
私たちが生活する上でも重要なコミュニケーション。ドローンの現場ではどんなコミュニケーションが重要になるのか、少しだけお伝え出来たのではないかと思います。現場で必要となるコミュニケーションはまだまだたくさんあります。それはまた次の機会にお伝えしたいと思いますが、空中ドローン・水中ドローンを運用する上では、ちょっとしたミスコミュニケーションが重大な事故につながる場合があります。これからドローンの現場で活躍される方は、ぜひコミュニケーションの重要性を改めて考えていただけたらと思います。