前澤工業株式会社は、水処理設備や上下水道関連機器の設計・製造で知られる水処理装置専業メーカーです。全国の浄水場・下水処理場などで数多くの実績を持つ同社は、近年、次世代技術の導入にも積極的に取り組んでいます。そんな同社が、浄水場・取水施設など上水道の厳格な衛生要件を満たしながら、水中ドローンの“実運用化”を進めています。その歩みと課題、今後の展望を、環境R&D推進室長の大澤裕志氏に伺いました。
聞き手:OTANI ライター:OTANI
 
	水中ドローンとの出会い
水中ドローンを初めて知ったのは、2021年に参加した展示会(Japan Drone)でした。スペースワン小林代表が登壇したパネルディスカッションやブースでデモ映像を見て、「これなら浄水施設の内部を安全に確認できるのでは」と直感しました。もともとDX推進の一環として何か新しい技術を取り入れたいという思いがあり、ちょうど水中設備の点検に課題を感じていた時期でもあったため、まずCHASING M2の導入を検討することにしました。

スペースワンを選んだ決め手
複数社から提案を受けましたが、スペースワンさんは単なる販売会社ではなく、「日本水中ドローン協会」としての活動基盤や、教育・運用支援の体制がしっかりしていた点が決め手でした。
社内での導入稟議の際にも、価格面だけでなく、信頼性・組織体制をもって説明できる点は大きな安心材料になりました。
担当の方に丁寧で迅速に対応いただいた点もよかったです。

導入から実証、業務化までの歩み
まずは社内の実験施設で機体の操作性や映像のテストなどを行い、段階的に導入を進めました。具体的には、2021年に開発業務の一環として水道施設(取水)内部の調査を行い、その翌年には関東の某浄水場で水中部機器(バルブ・ゲート)の劣化状況の点検を有償で行いました。浄水場や配水池などの水道施設は、その特性上、水質への影響を最も重視します。水中ドローンも例外ではなく、自社の分析センターで溶出試験などの水質検査を行いました。基準が非常に厳しいため、最初は試験に時間がかかりましたが、結果として「安全に使用できる体制」を確立できました。
2023年には、グループ子会社の 前澤エンジニアリングサービスとスペースワンの3社で業務提携 を結び、実運用フェーズへと移行しました。先日も北海道の農業用水施設の水中部機器点検を共同で行ったばかりです。

水中ドローンの活用領域と手応え
現在は、前澤エンジニアリングサービスにおいて、浄水場や取水設備などの点検を中心に、農業用水施設などにも活用を広げています。これまでのように水槽内の水を完全に排水した点検や、塩素消毒・検便など徹底した衛生管理を行う潜水士業務に比べ、時間をかけず簡易点検を行うことができる点が魅力です。映像の安定性や操作のしやすさも好評で、社内外から「想像以上にきれいに見える」との声が上がっています。お客様にもリアルタイムで水中部機械の映像を見せることができ、修繕提案にも有効です。また取得した映像をレポートとしてまとめることで、従来よりも説得力のある報告資料を作成できるようになりました。単に「見ただけ」で終わるのではなく、点検結果をもとに修繕提案まで行うことで、お客様の修繕計画にもご活用いただけるのではと思います。

直面した課題とリアル
一方で、実際の運用ではいくつか課題も見えてきました。まず費用感です。従来は潜水士による作業が基準だったため、水槽の排水・入れ替えが不要になり調査時間を短縮できるものの、水中ドローン点検の費用体系がまだ浸透していません。また、テザー(ケーブル)の取り回しは現場によっては難しく、配管などに引っかかるリスクもあります。さらに、流れのある環境では機体が押し戻されることもあり、今後は流速に耐える機体性能や運用ノウハウの確立が必要だと感じています。

スペースワンへの評価と期待
スペースワンさんには、私たちのように衛生基準が厳しい分野の事情を理解した上で、根気強くサポートしていただきました。単に機体を販売するだけでなく、実際の現場課題に寄り添いながら、一緒に改良や検証を進めてくれる姿勢に信頼を感じています。
生活に欠かせない上下水道施設の老朽化が問題になっている昨今、今後はより水道施設に特化した水中ドローンの開発や販売にも期待しています。
引き続き、水中ドローンの最新技術や情報の提供をお願いしたいですね。お互いが持っているノウハウを生かして大切な水道インフラの持続的な維持に関わっていきましょう!

インタビューを終えて
インタビューにあたり、これまでの取り組みを丁寧に整理したメモを用意してくださっていました。ひとつひとつの質問に真摯に答えてくださる姿勢から、上下水道施設という公共性の高い分野に携わる同社の責任感と誇りが伝わってきました。スペースワンとしても、その真摯な思いに応えられるよう、これからも現場に寄り添いながら水中ドローンの可能性を広げていきたいと思います。
企業名:前澤工業株式会社
代表者:宮川多正
住 所:〒104‐8351 東京都中央区新川一丁目5番17号
事 業:上下水道関連機器の設計・製造、水処理設備の建設・保守、水インフラの調査・メンテナンスなど
URL:https://www.maezawa.co.jp/
関連企業:株式会社前澤エンジニアリングサービス
URL:https://www.maezawa-es.co.jp/
