混沌と熱狂のドバイ。世界最大の展示会で感じたこと

ブルジュ・ハリファ(829.8m)と噴水ショー「ドバイ・ファウンテン」の様子

こんにちは。ドローン事業部マネージャーのOTANIです。突然ですが、つい先日、中東ドバイに行ってきました。目的は世界的なテック展示会「GITEX」(読み方:ジャイテックス)に、当社で開発中の水上ドローン「ARIVIA(アリヴィア)」を出展し、現地の声を集めること。ARIVIAは、水上を動きながら光や音楽、噴水などと同期してショーを行う“エンターテインメントドローン”です。

ドバイは世界中から人が集まる観光都市で、エンターテインメントの目も肥えています。なかでも世界一高い建築物ブルジュ・ハリファ(829.8m)前の噴水ショー「ドバイ・ファウンテン」は世界最大規模を誇ります。そうしたエンターテインメントに目の肥えた人々が集まる土地で開かれる展示会で「ARIVIA」を披露し、どのように評価されるのか(もしかすると石油王が!笑)、それを確かめに行ってきました。

今回は、その展示会の様子と、いまのドバイに触れて感じたことを、私の目線で駆け足でお伝えします。

ドバイとは

まずは簡単にドバイの説明から。ドバイはアラブ首長国連邦(UAE)の7つある首長国のうちの一つで、首都アブダビに次ぐ重要な地位を占めています。アラブ=産油国というイメージがありますが、石油産出の9割以上はアブダビが占めており、ドバイはそれほど石油埋蔵量はありません。そのため、石油依存からの脱却を目指し、観光、貿易、金融、不動産開発といった非石油部門での経済成長を遂げ、国際的なハブ都市として発展しました。とくに冒頭で紹介した世界一高いブルジュ・ハリファや、椰子の木型の世界最大の人工島パーム・ジュメイラなどが有名で、タックスヘイブン(税制優遇)としての魅力も相まって、富裕層や企業を惹きつけています。

GITEX(ジャイテックス)とは

GITEXは、ドバイで毎年開かれる世界最大級のテクノロジー展示会で今年で45回目を迎えました。今年は10月13日~17日の5日間にわたって行われ、市内中心地にあるドバイ・ワールド・トレードセンター(DWTC)と海沿いのドバイ・ハーバーの2会場同時開催でした(スタートアップ特化の「Expand North Star」はドバイハーバーで開催)。どちらも規模感は文字通り桁違いで、出展者は6,800社以上、180か国から2,000を超えるスタートアップと1,200以上の投資家が集結しました。会場は“街”のように広く、人の波が途切れないそんな展示会でした。

GITEXで感じた世界の今

世界最先端のテクノロジーが集う展示会とあって、ブースにはAIやロボット、スマートシティや最新モビリティなど様々な製品やサービスが所狭しと展示されています。また各国ブースでは巨大LEDや没入型デモで国を背負った“見せ方”を競い合っており、「これを5日間のためだけに作るのか」と圧倒される思いでした。また至る所でピッチイベントやディスカッションが開催されており、今世界が注目するOpenAIのサム・アルトマンCEOもオンラインで登壇していました。

同じく世界的なテクノロジーの展示会として米国・ラスベガスで開催されるCESがありますが、その両方に出展してみて大きな違いを感じました。一番大きな違いはCESはテクノロジーを披露する見本市的な性格が強いのに比べ、GITEXはそういった側面もありますが、より具体的な商談、つまりすぐにでも導入する前提での交渉が多く行われている点です。そのため、会場の至る所で活発な商談が行われ、会場全体が熱を帯びています。

また会場には、カザフスタンやシリア、ロシア、中央アジア・中東・アフリカ各国など、普段の欧米の展示では出会いにくい企業・来場者が数多く参加していました。そうした服装や言葉、文化や価値観が異なる人々が一堂に会することで混沌が生まれ、さらに互いの利害に沿って交渉を行うことで、会場に巨大なエネルギーが生まれているようでした。こうした熱気やエネルギーは、日本や米国の展示会ではあまり感じることはなく、世界の勢いやパワーを感じた瞬間でした。

GITEXでのARIVIAへの反応

こうした熱気やほかの国の展示会との違いは、私たちが出展したブースでも感じました。私たちが開発している「ARIVIA」は、水上を動きながらショーを行うまったく新しいドローンです。当然、どこにも存在しない製品ですので、展示している機体を見ても何をする機械なのか分かりません。そこでイメージ動画を制作し、コンセプトを伝えるとともに、興味を持って立ち止まった人には開発中のアプリによる映像やLEDの操作などを体感してもらいました。ここまでは他の展示会でも同様ですが、違うのはそこからです。

本当に興味を持った人はそこから矢つぎ早に質問が始まります。「バッテリー時間は?」「ショーは何分できる?」「噴水の高さは?」「値段は?」とひとしきり質問したあと、「わかった。じゃあ5台買いたい」「とりあえず10台欲しい。それで問題なければ100台入れたい」という人から、「とりあえず、作っているものすべて売ってくれ」という人まで、とにかく結論までの判断が早く、ビジネスのテンポが想像以上でした。ただ「すぐ欲しい」と言われても、まだ開発途中ですので「今はない」と答えると、ではなぜ出展しているのかと不思議そうな顔をする人や、とにかく販売したら連絡して欲しいという人など、さまざまな反応が返ってきました。

しかし、総じて言えるのは、新しい製品を貪欲に探している人が多くおり、ARIVIAはそうした人の興味に十分耐え得る製品だということでした。我々としては、こうしたフィードバックを得られ、製品開発に活かせるだけでも出展した価値が十分にあったと感じています。また会期中には600名を超える方がブースに訪れ、在ドバイ日本総領事館の総領事も来訪いただくなど大盛況のうちに終えることができました。

日本について感じたこと

世界の展示やブースの様子は上記のようなものでしたが、一方で日本のブースはどうだったでしょうか。正直、残念ながらほとんど存在感を示せていませんでした。全体で25社ほどの日本企業が出展していましたが、そのうち15社はJETROや東京都のブース内に出展しており、単独でのブース出展企業は10社でした。とくにGITEXのメイン会場となるドバイワールドトレードセンター(DWTC)に出展していたのは当社を含めて10社だけで、あまり存在感はありませんでした。(現地法人が多く、日本からの出展は3社程度)

一方、同じアジアでも韓国はDWTCに約150社が出展し、複数のパビリオンを構えるとともに、一部をKorea Avenue(韓国通り)として占有するなど大きな存在感を示していました。ほかにも台湾やタイ、マレーシア、インドネシアなどの国々が華やかなブースを構え一定の存在感を示しており、それに比べると日本は…という実情でした。

また我々のブースの壁面や展示台には日本国旗を置いていたのですが、国旗を見ても「China?」「Korea?」といわれることもあり、国際社会での日本の認知度の低下を感じました。ただ日本を何度も訪れている人や、来日したことはないけれど、NHKの日本語講座やアニメで勉強して流暢な日本語を話す方など、日本好きな方も数多くいるだけに、日本企業の少なさをとくに残念に感じました。

ドバイの“光と影”

長くなりましたが、最後に個人的に感じたドバイの光と影について。光の部分はこれまで書いた通り、世界最大の建物や人工島、目を見張るような芸術的な建造物、旧市街地に広がる異国情緒溢れるマーケットなど、訪れる人を魅了するものが多く溢れています。

一方で、砂漠特有のくすんだ空の下、7車線もある道路は膨大な数の車が行き交い、常に渋滞を引き起こしています。また至るところで開発が行われており、土埃とともに大きな騒音を生んでいます。現地で聞いた話では、人口の約1割がアラブ人、それ以外の約9割は外国人労働者で、前者は平均年収が2000~3000万円に対して、後者は200~300万円と10倍近い差があるということでした。その圧倒的多数の労働者が1割のアラブ人のために働いている構図はある種異様です。

実際、宿泊所の周囲を取り囲む建設現場では、朝早くから夜遅くまで昼夜を問わず多くの労働者が働いており、労働環境も決して良いとはいえません。ある日乗ったタクシーの運転手はパキスタンからの出稼ぎ労働者らしく、「15年以上住んでいるが、一度もこの国を好きになったことはない」と冷めた口調で話していたのが印象的でした。

おわりに

どこの社会でもいい面、悪い面があるとは思いますが、初日に宿泊所の新品の洗濯機が壊れたり、自動販売機からお釣りが出て来ない経験をすると、日本の当たり前は決して当たり前でないのだな、と考えさせられます。
また、存在感が下がったとはいえ、車やエレベーター、トイレなど生活に近いものに日本製が多く、製品への信頼は厚いと感じて誇りにも思いました。
私たちも「ARIVIA」という製品を通じて、日本らしさを少しでも世界に伝えられればと感じたドバイへの出張でした。