“空中と水中”ドローン二刀流のススメ

こんにちは!ドローン事業部マネージャーのOHTANIです。
当社では2015年から空のドローン事業を、2017年から水中ドローン事業を本格的に展開してきました。空から水中まで一貫してドローンを扱ってきた経験を活かし、今回は「空中と水中ドローンの二刀流」をテーマにお話しします(O谷だけに。すみません…)。それぞれの特徴や活用分野、そして両方に取り組むことのメリットについて、できるだけわかりやすく紹介しますので、最後までお付き合いください。

(この記事の対象:空中ドローンや水中ドローンを業務で活用している方、またはこれから導入を検討している方)

はじめに

空のドローン(無人航空機)はここ10年ほどで急速に発達し、建設・農業・物流・インフラ点検など様々な分野で活用が拡大しています。背景には、スマートフォンなどの技術革新を応用して、小型のセンサーやカメラ、制御装置が低コストで手に入るようになったことがあります。実際、スマホ市場の伸びが鈍化した2010年前後からその技術がドローンに転用され、中国・深センを中心にカメラ付きマルチコプター、いわゆる空のドローンが一気に普及しました。一方、水中を自在に動く水中ドローンにも近年大きな注目が集まっています。水中ドローンはもともと遠隔操作型無人潜水機(ROV:アール・オー・ブイ)と呼ばれ、海洋調査などで使われてきた技術です。ここ数年、センサーや姿勢制御など空のドローン技術が取り入れられ、小型化・高性能化が進むとともに「水中ドローン」という名称が浸透してきました。例えば、従来型ROVに空中ドローンの技術を組み合わせた新型機体では、バッテリー式にすることでケーブルの太さを削減し、小型のスラスター(プロペラ)を複数配置することで小回りと速度向上を実現しています。このように、空と水中それぞれの技術が融合し、双方のドローンが進化してきたのです。

空のドローンと水中ドローンの共通点と違い

まず、空のドローンと水中ドローンの基本的な共通点と相違点を整理してみましょう。どちらもカメラや各種センサーを搭載し、人が立ち入れない場所から映像やデータを取得できる無人ロボットです。空のドローンが高所や広範囲のデータ取得に優れるのに対し、水中ドローンは水面下の構造物検査や生態調査などに威力を発揮します。両者とも適材適所で使い分けることで、人手不足や危険作業の課題解決につながっています。しかし、その動作環境や操作方法には違いがあります。
まず大きな違いとして、空中ドローンは無線を使って機体を遠隔操作しますが、水中ドローンはケーブルにつながった機体を操縦します。水中は電波がほとんど伝わらないため、基本的にケーブルを通じて機体を操作します。そのため、ケーブルの取り扱いが操縦にも影響します。また空とは異なり、水の中に入った機体は基本的に操縦者から見えないため、水中ドローンが映すカメラ映像を頼りに操縦を行います。空のドローンで言う目視外飛行です。

このように、空と水中では環境条件が全く異なるため、ドローンの設計や運用もそれぞれ専用の工夫が必要です。また、それを取り締まる法律も異なります。

法律について

ドローンを運用するうえで気になるのが法律・規制です。空のドローン(無人航空機)については、日本では航空法で明確にルールが定められています。例えば重さ100g以上の機体は登録が義務化されており、人口密集地や夜間飛行などを行う際には国土交通大臣の許可・承認が必要です。また2022年からはドローン操縦者の技能証明(国家資格)制度が始まりました。このように空を飛ぶドローンは法律による厳格な安全管理のもと運用されています。

一方で、水中ドローンに関しては現状、直接規制する法律は存在しません。空のように国家資格や飛行許可が必要というルールはなく、誰でも比較的気軽に操縦ができるのが現状です(民間団体によるライセンス『水中ドローン安全潜航操縦士』などは存在)。しかし「法律が無い=何をしても良い」ではありません。間接的に関連する法規には注意が必要です。例えば港湾内で水中ドローンを使う場合は港の作業や船舶航行に関する港則法や海上交通安全法に抵触しないよう配慮する必要があります。万一、港内で船舶の通行を妨げる危険がある場合は、事前に海上保安庁への許可申請が必要です。同様に、河川で使用する場合は河川法など、使用環境によって関連する法律・規制は異なります。必ず使用環境に応じた許可や届出を行うとともに、わからない場合は監督官庁や管理団体に問い合わせるなど、安全への配慮を忘れないことが大切です。

何ができるの? 各分野への広がり

では、空と水中それぞれのドローンは具体的に何ができるのでしょうか。まず空のドローンについては、すでに様々な産業分野で利活用が進んでいます。上空からの写真測量による地形データ作成、建設現場の進捗管理、農薬散布や農作物の生育状況モニタリング、物流分野での荷物配送の実証実験、インフラ点検では橋梁や高層ビル外壁の検査など、枚挙にいとまがありません。ドローンによって従来は人手と時間を要した作業が効率化し、安全性も向上するため、多くの業界で導入が加速しています。

それに対して水中ドローンの産業利用については、あくまで私見ですが、空に比べれば3〜5年ほど遅れて追随している印象です。例えば空のドローンは、小型化・高性能化したラジコン(マルチコプター)にカメラが搭載され、空撮ができるようになったことから、趣味として利用が広がりました。さらに高性能化が進んだことで産業分野でも使用できる機体が次々と登場し、現在では分野ごとに特化した機体やサービスが生まれています。

一方、水中ドローンも水中を自在に移動でき、簡単に撮影・観察できるロボットとして、趣味の分野を中心に広がってきました。そして近年、機体性能が急速に進化し、さまざまな産業分野に取り入れはじめました。例えば土木・インフラ分野では、水中構造物の調査への活用が進んでいます。橋脚や港湾施設、ダム堤体の水中部分の点検などに使われ始めており、潜水士では危険だった場所での調査が安全に行えるようになっています。水産業では、養殖魚のモニタリングや生け簀(いけす)の点検に水中ドローンが活躍しています。ほかにも防災・捜索分野では、水害時に水没した構造物の損傷調査や水難救助の際の捜索に水中ドローンを利用する動きもはじまっています。

このように、水中ドローンの用途は水中観察やレジャーに留まらず、産業界へ広がっています。空中ドローンが空の産業革命とも呼ばれ多様な分野で定着したように、水中ドローンも水中の産業革命を起こしつつあると言えるでしょう。現状では空中ドローンに比べると普及は若干遅れていますが、水中ドローン市場は年々成長しており、これからの可能性に大きな期待が寄せられています。

“空と水中”二刀流の強み

当社では、空中ドローンと水中ドローンの両方を事業にいち早く取り入れています。ここでは空中ドローンと水中ドローン、二刀流で取り組むことで得られる強みについて考えてみます。単に機材を2種類持てるというだけでなく、両者を組み合わせることで生まれる相乗効果があります。

まず、大きなメリットはサービスの幅が広がることです。空も水中も扱える企業であれば、例えばダムや橋梁の空から水中まで一貫した点検が可能です。上空からドローンでダム堤体の地上部分を撮影し、続いて水中ドローンで水面下の構造を調査するといった流れをワンストップで提供できます。他社であれば空撮専門・水中専門に分かれてしまうところを、一括して対応できるのは大きな強みです。また、空と水中それぞれで得たデータを統合し、より価値の高い成果物を提供できる点も見逃せません。例えば当社では、水中ドローンで撮影した水中映像と空中ドローン・手持ちカメラで撮影した陸上映像を組み合わせ、水中部分と地上部分が一体化したインフラ設備の3Dモデル生成に成功しました。水中と空中の点群データをデジタルツイン上で統合することで、従来は困難だった構造物全体の把握(位置関係や寸法の把握)も可能となります。このように上下のデータ融合まで視野に入れると、空中ドローンと水中ドローンの両方に精通していることが大きなアドバンテージとなります。

さらに、技術や知見の共有という点もメリットでしょう。両者の操縦方法はよく似ており、空のドローンを操縦した経験がある人であれば、水中ドローンの操縦に慣れるのに時間は掛からないでしょう。実際、当社ではほぼすべてのインストラクターが空のドローンと水中ドローンの操縦士を兼ねています。また空のドローン運用で培った安全管理のノウハウや制御技術は、水中ドローン運用にも活かせますし、その逆も然りです。両方を知ることで見えてくる新たな発想もあるはずです。

まとめ

空中ドローンと水中ドローン、それぞれの特徴や活用状況、そして二刀流の利点について見てきました。空のドローンはすでにさまざまな産業で不可欠なツールとなり、安全ルールも整備されつつあります。一方の水中ドローンも技術進歩とともに実用化が本格化し、空に遅れること数年で着実に普及が進んでいます。双方のドローンには異なる強みがありますが、両方を扱うことで「できること」の範囲は飛躍的に広がるでしょう。空から水中までシームレスに点検・調査できれば、今まで見えなかったリスクの発見や、新しい価値の創出にもつながります。
ぜひ皆さんも空と水中ドローンの二刀流にチャレンジしてみてください。最初はハードルが高く感じるかもしれませんが、空のドローン操縦経験がある方は水中もきっと楽しめますし、水中から入った方が空を飛ばすケースもあります。当社でも空・水中両分野の研修や導入支援を行っていますので、興味があればお気軽にご相談ください。空の先に広がる水中の世界を制覇して、ドローン活用の可能性を一緒に切り拓いていきましょう!